Chim↑Pom
The other side
2017 2.18 - 2017 4.9無人島プロダクションでは、2月18日よりChim↑Pom 展「The other side」を開催いたします。
本展でChim↑Pom は、「ボーダー」をテーマに、2016 年から2017 年にかけてメキシコ・ティファナと アメリカ・サンディエゴの国境沿いで制作したアートプロジェクトを発表します。
「The other side. I know people there too.」……私は向こう側にも人々がいるこ とを知っているわ。
Sol(7 歳)、コロニアリベルタにて。『Los Angeles Times』(2017.1.23)より抜粋
Chim↑Pom は2014 年からアメリカ合衆国の国境問題をテーマとした、「COYOTE」 (2014, NY と東京で展示)、「U.S.A. Visitor Center」 (2016)、「LIBERTAD」「The Grounds」 (ともに2017)を制作してきました。今回の新作を含むこれらの連作プロジェクトは、Chim↑Pom のメンバー、エリイが抱える アメリカへの入国規制(※)という個人的な問題をきっかけとして、古今東西さまざまな場で引かれてきたボーダーに着目し制作したものです。また、2015年、Chim↑Pom イニシアティブのもとでスタートした、東京電力福島第一原発の事故によってできた帰還困難区域内での国際展「Don’t Follow the Wind」も、世界中のさまざまな「立ち入れない場所」をChim↑Pom が意識するきっかけとなりました。
(※)この問題はそもそも、エリイが日本のテレビ番組のハワイロケに参加する際に、クルーのひとりがアメリカのイミグレーションのブラックリストに入っており、彼と同行予定だったエリイを含む出演者数人が入国を拒否されたことに起因している。以来、エリイやほかの出演者はESTA 申請を拒否され続けている。
【COYOTE】(2014)
「COYOTE」は、エリイがグループ展への参加に際し、ニューヨークのギャラリースタッフに、「コヨーテと呼ばれる入国斡旋業者のアテンドによってメキシコからアメリカを目指す」と話すSkypeビデオに加え、ヨーゼフ・ボイスのパフォーマンス「コヨーテ-私はアメリカが好き、アメリカも私が好き」を引用したインスタレーション作品です。
本展では「COYOTE」につづく連作として、メキシコでの三つの現地制作作品を紹介します。
【U.S.A. Visitor Center】(2016)
メキシコの国境の街ティファナにはメキシコ人のみならず、さまざまな国からアメリカを目指す人々が集まってきます。ティファナにはLibertad(リベルタ。「Liberty、自由」のスペイン語)と呼ばれる国境沿いの地域があり、そこにはアメリカに立ち入れない多くの人々が住み着いています。そこでChim↑Pomは今回のプロジェクトの協力者となる家族に出会います。スラムに住む彼らの家はDIY によって建てられており、国境壁が自宅の庭や部屋の壁として利用されています。
この家の庭には周囲でもひときわ目立つ大きな木があり、Chim↑Pom はそこに、「立ち入れないアメリカ」のメタファーとして、「U.S.A. Visitor Center」と題したツリーハウスを2016年7月に建設しました。遠くの外敵を監視する目的がルーツといわれているツリーハウスは、近代においては、『トムソーヤーの冒 険』などのイメージに代表されるように、物質社会を離れて自然とともに生きる自由な生き方の象徴にもなっています。国境の向こうにそびえる目の前の監視塔と向き合い、アメリカと国境壁を見下ろすこのツリーハウスは、地元の子供たちの遊び場所になりつつ、ビジターセンターとして「アメリカとは?」「ボーダーとは?」という問いも投げかけています。
そしてこの「U.S.A. Visitor Center」の窓から鑑賞する作品が、「LIBERTAD」と「The Grounds」の二作品です。
この二つの作品はリベルタに複数存在するといわれる不法入国のためのトンネルに着想を得たもので、それぞれ作品として自立しながらも、両国をまたいで設置された二つの穴からなる連作でもあります。
アメリカの地に自由の墓を建てる━ Team LIBERTAD(チーム・リベルタ)
【The Grounds】(2017)
「The Grounds」はエリイによる私的なアクションであるとともに、メキシコ側の国境沿いに掘った実際の穴です。穴は地下に刺さった国境壁と、その下のアメリカと メキシコの境界である土にまで行き当たります。そこまで潜ったエリイは、その土に足跡を残しました。アメリカのオーバーグラウンドには立てないエリイが、アンダ ーグラウンドでアメリカの地に合法的に足を踏み入れるプロジェクトです。
【LIBERTAD】(2017)
そして「LIBERTAD」は、「The Grounds」とは逆に、アメリカ側に設置した作品です。
現在、国境には新旧二つの壁があり、その壁の間にはアメリカ政府管轄のとくにきびしく立ち入りが制限された、「ノーマンズランド」と呼ばれるゾーンが存在します。けれどもそこは、近所のメキシコ人にとっては生活圏の一部でもあり、ゴミを投げ入れたり飛んでいったボールを拾いに行ったりと、緊張関係を保ちつつも身近な土地として存在しています。Chim↑Pom はその場所に、現地の人々とともに「チーム・リベルタ」を結成し、FRP で制作した穴と十字架、スコップを、「The Grounds」の穴と対になるように設置しました。十字架は墓を意味し、十字架に書かれた墓の主の名前は、穴の向こう側である「LIBERTAD」です。「LIBERTAD」、英語で自由を意味する「Liberty」は、リバティ島にある自由の女神や、アメリカの硬貨に刻まれていることからでもわかるように、アメリカ合衆国の象徴的理念としてあり続けた言葉であ り、昔から多くの移民に門戸を開いてきたアメリカの重要なコンセプトでもあります。
「アメリカの地に『自由』の墓を建てる」。自由を謳うアメリカの、立ち入りも行き来の自由もない場所に建てられた墓に埋葬されたのは「自由という概念」であり、そこにエリイやチーム・リベルタのように入国規制された人々や国家間の問題も重ねられています。
今回のティファナでのプロジェクトは、自由を信じてきたアメリカ人や国境に挑み続けるメキシコ人たちへ向けたものであると同時に、シリアの難民、福島から避難した人たち、世界中の不法移民や政策による移民受け入れ規制など現代社会のあらゆる「ボーダー」に人生を左右されている人たちへも同じく向けられています。
本展タイトルとなっている「The other side〈向こう側〉」は、リベルタの人々がアメリカのことをいう際の言葉に由来します。アメリカ一国の問題に集約せずにこの言葉を展覧会タイトルに採用したChim↑ Pom。しかしこのプロジェクト制作とほぼ同時に誕生したトランプ新大統領は、国境壁建設、難民受け入れの120日間停止、イスラム圏7ヶ国からの入国の90日間停止など、就任直後から入国管理に関するさまざまな大統領令に矢継ぎ早に署名しています。抗議デモが各地で勃発し混乱が広がる中で、今世界中の人々が、「新たなアメリカの動向にまつわる《The other side》」の今後を固唾を飲んで見つめています。
このような激動・不寛容の時期に「自由」と「それを阻む壁」をテーマにしたChim↑Pom 展を、無人島プロダクションは、2017年の世界のスタートを飾るにふさわしい/飾る必要がある展覧会であると考えています。また無人島プロダクションでも2017 年は、他人との協働、他者への想像力といったことをテーマに一年のプログラムをギャラリー内外で展開していきたいと思っています。激動の時代である今だからこそ、みなさまにご覧いただきたい展覧会です。どうぞよろしくお願いいたします。