加藤翼
Crematorium
2025 3.22 - 2025 5.11
会期:2025年3月22日(土)-5月11日(日)
開廊:水-金 13:00-19:00 / 土・日 12:00-18:00
休廊:月・火、 4/29、 5/3、5/6
オープニングレセプション:3月22日(土)17:00-19:00
このたび、無人島プロダクションでは加藤翼展「Crematorium」を開催いたします。
加藤翼はこれまで多くの人々との共同パフォーマンス、構造体を引き倒す/引き興すプロジェクト「Pull and Raise/Topple」などを通じ、ビデオや写真といった複層的なメディアを用いた表現を展開してきました。
本展では、作品のテーマの一つでもあるった「自己と他者の境界」を新しい形で提示します。
新作に際し、加藤は次のように述べています。
「もし、遠く離れた地で行う私のパフォーマンスが風景画のように見えるとするならば、本作は、過去の物語を未来の可能性へと変換する自画像としての彫刻です。祖母を亡くし、遺品を整理する中で見つけた日本人形は、彼女の時間を閉じ込めた存在のように感じられました。そして、新たに生まれた子供との生活の中で、私は節句人形の慣習を改めて見つめ直すようになりました。日本では、親たちが子供のために人形を飾る一方で、役目を終えた数万体の人形が毎年供養されています。その光景の中に「親」という集団性を見出しながら、自らも親となり、祖母を失ったこのタイミングで、自画像的な彫刻を制作することにしました。
日本人形をリサーチする中で、私が最も関心を持ったのはガラスケースでした。それは、日本における「美術」の輸入史に深く関わる要素であり、人形が手に触れることのできる「玩具」から、触れることを許さない「鑑賞物」へと変容する境界線でもあります。かつて人形は神の依代であり、子供の健やかな成長を願う祈りの象徴でした。しかし、高度経済成長とともに大量生産され、家庭に溢れた人形たちは、現代では「供養されるもの」としての側面をより強めています。
パンデミック下で、施設に入っていた祖母とはガラス越しにしか会えず、電話を通じて言葉を交わすことしかできませんでした。最後にガラスの扉が開かれ、祖母の手に触れた瞬間、それまで隔てられていた時間が一つになったように感じました。本作では、3Dスキャンと彫刻を用いて、人形と身体、物と記憶の関係を探求します。触れることの意味、記憶の継承、そして時間の不可逆性に向き合いながら、私はガラスケースを火葬炉と重ね合わせ、私たちの生命のサイクルにおける距離感を捉え直します。」
コロナ禍に祖母の死と我が子の誕生という死と生を身近で経験した加藤が着目した「人形」。それがきっかけの一つとなり、昨年より人形の歴史や人々の信仰、市井への浸透などについて、小笠原敏晶記念財団の「調査・研究等への助成」を受け、さまざまな地でリサーチを行いました。
そのなかで、これまで国内外のさまざまな場所で出会った人々との共同=協働作業によって成立させていたプロジェクトとは異なり、作家自身が当事者として、また「誰もが触れたであろう/触れている」人形を通じて、鑑賞を超えたよりリアルで普遍的な体験といった領域に自身のテーマを接続させました。
本展は、3Dプリント人形、映像インスタレーション、リサーチのドキュメントで構成されます。
「境界」が内包する歴史、記憶、供養、再生、共有といった複数の要素や事象が絡まり合った本展をどうぞご高覧ください。
そして触れられない鑑賞を通して、かつて触れた記憶に接続していただけたらと思います。