田口行弘

見えない道しるべ

2019 11.24 - 2019 12.21

無人島プロダクションは、移転後第2弾の展覧会として、田口行弘展「見えない道しるべ」を開催いたします。

本展では、田口が2013年から続けているプロジェクト「Discuvry」を主軸とした映像インスタレーションを展開します。
軸となる「Discuvry(ディスクブリ―)」とは、ベルリンの空き地に廃材で家を建てるところから始め、そこでの生活を追ったドキュメンタリーです。2年生活した後に家は解体されコンテナで保管されました。その後モバイルハウスとしてデンマークで展示され、今年10月には金石海岸(金沢市)に限定移設されました。来年はドイツの湖畔でのプロジェクトに移設予定です。家を建てたその場所で、生活の基盤やライフラインを確立すること自体も田口は「制作」と位置づけ、「Discuvry」は現在も「作品制作」と「日常生活」を並行しながら更新しています。
田口は、「Discuvry」は世界の縮図を体現してくれる、といいます。さまざまな土地の、開かれた公共の場で展開されるこのプロジェクトは、地域色や自然環境、周辺の人々やその地の食材からごみに至るまで、来るものや目に入るものを享受することによって、経済、自然災害、地域や自治といったコミュニティのつながり、そして分断など、私たちの生活を取り巻く環境と諸問題を含みながら継続しています。田口はそこで出会ういかなる価値観をも拒否することなく、向き合い、共有し、考察を繰り返し、作品を制作してきました。

この「Discuvry」は田口の制作動機とコンセプトの根幹となるプロジェクトであり、今回はその後に制作した近作・最新作を加え展示をおこないます。
先月までアーティスインレジデンスプログラム(AIR)で金石海岸に滞在し、海岸に建てた家を中心に、地元の人たちと交流しながら生活した最新作「Discuvry in Kanaiwa」(2019年)、同じ場所で昨年海岸に漂着したさまざまな漂流物(片方だけのサンダル、流木、ペットボトルなど)の「居場所」をつくるというテーマの映像作品「whereabouts」(2018年)、昨年の越後妻有アートトリエンナーレで龍神伝説が残る池を舞台に制作した映像作品「おくり水」(2018年)、アテネで制作した、ひたすら高みをめざす映像作品「α(アルファ)」(2015年)を展示します。そして、海岸に漂着した無数の流木やペットボトルで作ったインスタレーションの中でそれぞれの映像をゆるやかにつなぎます。

本展タイトル「見えない道しるべ」には、これまでさまざまな地で制作してきた田口の経験からの思いが込められています。

たとえば、国や世界、経済、環境の変化、人生といったものの行き先は、道路標識のように見えるものではない。では、どうやって自分自身が舵をとっていくか?
さまざまに発信される情報などを参考に、最後にはその情報を信じるか信じないかも含めて、いわゆる直感や経験などで道しるべを立て、次の行動に移していく。 人は誰しも生活の中で、気づかない間にも無限の分岐点に立ち、道を選び、進み続けている。その道しるべは目には見えないが、確実に存在している。ただ、同時にニセモノの道しるべも乱立していると感じる。
そんな道しるべに惑わされることなく、目の前の利益に価値観を支配されることのないよう、道しるべを見極め見据えたい。

先行きの見えない出来事が絶え間なく発生する現代においては、未来を楽観視できず不安を覚えることも多い状況が続きます。それでもその中で、自分なりの指針(道しるべ)を予測し、動いていくしかありません。
さまざまな立場や考え、価値観の中で共生することを前提に、道を選び歩いていく。そこには強い覚悟も必要になりますが、そんな状況でもたくましく生きつつ軽やかなフットワークで楽しみながら自分の居場所を見つけていく。田口の作品には、そんな作家の意志がふんだんに盛り込まれています。田口行弘のライフワークともいえるこの「Discuvry」のように、常に新しい出会いを受け入れながら、のびのびとゆるやかに成長していきたいーー、そういう思いを込めて本展を開催します。 どこかから流れついた流木でつなげた過去と現在、そして未来への希望を感じる映像を是非ご覧ください。
自分たちにとって大事なもの、未来につなげたいものを作品から感じとっていただけることを願っています。