風間サチコ
没落THIRD FIRE
2012 12.8 - 2013 1.19無人島プロダクションでは、風間サチコの約2年ぶりの個展「没落THIRD FIRE」を開催いたします。本展で風間が提示するのは「原子力産業とそれをとりまく力の没落」です。
酸素中の自然燃焼を第一の火、電熱線による発熱などを第二の火と呼び、原子力開発黎明期に、新しい科学技術の誕生を讃え核分裂による発熱と発電を第三の火(THIRD FIRE)と呼んだ、この「第三の火」が全体のテーマとなっています。本展では、4mを超す新作木版画「噫!怒涛の閉塞艦」と、2m近い作品2点「黎明のマークⅠ」「獄門核分裂235」の3点を展示します。
「噫!怒涛の閉塞艦」は、原子力発電における「安全神話」への疑問を描いた作品です。度重なる大小の事故の隠ぺい、そして事故を真摯に検証するではなく、ひたすら「安全性」のアピールに金と力を注いだ、この国の、未来の安全性を軽視した姿勢と拙速な建設が招いた福島第一原発事故という悲劇。「明治三陸大海嘯には《風俗画報》というリアルな史料が、広島の原爆には丸木夫妻の《原爆の図》があるように、記録画は【忘却】の【防波堤】である」という風間が描いたのは、広島、長崎、ビキニ、福島の核と原子力にまつわるクロニクルです。
作品「黎明のマークⅠ」には、建設中の福島第一原発一号機の格納容器マーク1が描かれています。「陸軍磐城飛行場」、これが現在福島第一原発の建つ土地にかつてついていた名称です。昭和15年、国家総動員で飛行場が建設され、戦争末期の20年、特攻基地となった飛行場から若者たちが空に飛び立っていきました。そして長崎に原爆が投下された同じ日、8月9日から二日間、米軍の艦載機によって空爆され飛行場は壊滅しました。国家総動員法と原子力開発、この土地に埋まっている統制と国策の歴史の地層を風間は掘り(彫り)起こします。
国会議事堂、旧内務省ビル、警視庁ビルを従えた経産省ビルから飛び出した、原子核を取り巻く6つの電子たちを描いた「獄門核分裂235」、は、第五福竜丸がビキニ環礁にて被爆したその翌日に、日本で可決された日本初の原子力関連の予算「原子力平和利用研究費補助金」にも焦点をあて、「平和利用」の美辞を建前に被爆国・日本が核分裂をはじめた瞬間を描いています。
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制御も始末の方法も未熟なまま核分裂を始め、夢の科学を謳いつづけた「第三の火」……。 道理を超越した「統制」と「理想」の先に待ち受けていたものは、皮肉にも必然的な没落であった。 人間と人間以外のものをも支配する「力」のたどる運命を目の当たりにした今、「造化に従ふ」(松尾芭 蕉)といった先人の謙虚な言葉に心を寄せて舵を切り替えなければならない時が来たのだと思う。
2012年 風間サチコ
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風間がこの一年、さまざまな場所に赴きリサーチをつづけ、彫り起こした歴史に対する怒りと警鐘を、是非ご覧いただきたいと思います。