炉 (2019)
ビデオ
16分47秒
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北海道の北東部に位置する港町・釧路を舞台に、魚介や肉を焼くスタイルの炉端焼き発祥の店として知られている「炉ばた」で働く焼き手・中島静子さんの姿をカメラは静かに見つめる。スローな編集とスローな料理が瞑想的な映像とマッチしながらも、微かに触れるアイヌへの言及や、現代社会における火と人間を取り巻く環境問題などを繊細に描き出している。
この映画は、脚本も絵コンテもなく、2日間で撮影された。観察ドキュメンタリーのようなプロセスで、ベテラン料理人の静子さんの日常を追いながら、この独特の店の雰囲気を捉えた。終盤にテレビで放送されていた火事のシーンや黄色いベストの動きは偶然の出来事であり、私にとってはこのショットがこの映画の全体のトーンを決定づけた。
元来、仙台を発祥とする炉端焼き。今では世界的にもROBATAYAKIとして親しまれ、旬の魚介や肉を取り入れて焼くスタイルを始めたのは、本作の舞台である北海道釧路市にある老舗「炉ばた」とされている。そのお店で今でも唯一焼き手を務める中島静子さんの所作をカメラが淡々と追いつつ、火を巡る人間の営み、和人目線によるアイヌ文化の表象不可能性、また燃料税の高騰や環境問題をあぶり出すことを試みた、ある冬の営業日の記録である。