THE LAST BALL展示風景(資生堂ギャラリー、東京)
THE LAST BALL展示風景(資生堂ギャラリー、東京)
THE LAST BALL
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THE LAST BALL
THE LAST BALL (2019)
3チャンネル ビデオインスタレーション
10分34秒 / 10分34秒 / 31分44秒

フランス人作家ピエール・ロティは、明治19年11月3日に鹿鳴館で催されたとされるある舞踏会に招かれた。その晩、彼は会場で出会った小柄な「日本の最も立派な一工兵将校の令嬢」と一緒に「美しく青きダニューブ」を含むワルツを三度踊ったとされ、その様子は紀行文『江戸の舞踏会』(1889年)に詳細に記されている。その本が出版されてからおよそ30年後、芥川龍之介はロティの『江戸の舞踏会』を下敷きにした短編小説『舞踏会』(1920年)を発表。西洋的観点で描かれたロティの文章と、彼がその晩踊ったとされる女性「明子」が主人公である芥川の創作物との関係性は、映画に例えれば同じ主題を扱ったドキュメンタリーとフィクションのそれに近い。

本作《The Last Ball》は、この二つのテクストが同じ時空間を舞台にしている構造に着想を得て、国境・人種・性別・階級といった様々なまなざしの交錯について言及した3チャンネルの映像インスタレーションである。映像のなかで、明子役とロティ役の俳優は、お互いのiPhoneで相手を撮りつつ、自分は極力撮られないように逃げる、というルールが課せられている。その身体的な動きは、会場で同時収録されたカルテットの生演奏によって、即興の「ダンス」となって記録されている。複数のカメラで、それもワンテイクで記録されたこのパフォーマンスは、異なる視点が同期されることで重なり合い、観るものに単眼では得られない豊かさを喚起させる試みである。なお、明子とロティが持っているiPhoneのカメラには、瞳の色の違いによって世界の色が異なって見えているという研究を反映させた。東洋人である明子にはグリーンを、西洋人のロティにはマゼンタを採用し、二人が撮った映像がスクリーンを介して重なったとき、お互いの映像を補色し合う色彩設計となっている。