Chim↑Pomは2014年からアメリカの国境問題をテーマとした《COYOTE》(2014)、《U.S.A. Visitor Center》(2016)、《LIBERTAD》(2017)、《The Grounds》(同)を制作。プロジェクト全体のタイトルを、メキシコのアメリカ国境沿いに住む人々がアメリカを呼ぶときのニックネーム「the other side」とした。エリイが抱えるアメリカへの入国規制という個人的な問題にフォーカスしたものだが、福島第一原発の事故によってできた帰還困難区域や、世界中の移民や難民の問題、あらゆる国境やボーダーなど、現存するさまざまな「向こう側」への想いが込められている。
「COYOTE」2014
エリイが抱えるアメリカへのイミグレーション問題をベースにした、インスタレーション作品。「コヨーテ」と呼ばれるメキシコからの密入国斡旋業者について話し合う、ギャラリースタッフとのミーティングを収めたSkypeビデオと、動物のコヨーテと行うだろうパフォーマンスの準備だけがギャラリーに展示された。ヨーゼフ・ボイスのパフォーマンス《コヨーテ─私はアメリカが好き、アメリカも私が好き》から引用している。ニューヨークという現実の場所を作品のステージにしながらも、「現地制作ができない/許されていない」エリイは、インターネットでしかパフォーマンスを行えず、自らインスタレーションを作ることができない。ボイスがコヨーテとパフォーマンスを行ったときとは異なり、2014年のギャラリーにはアーティストもコヨーテもいなかった。
「U.S.A. Visitor Center」2016
メキシコのティファナには Libertad(リベルタ/「自由」のスペイン語)と呼ばれる国境沿いのスラム地域があり、多くの人々が住みついている。彼らの家はDIYによって建てられており、国境壁を部屋の壁としたり壁沿いを自宅の庭としたりしている。そこで、Chim↑Pomは今回のプロジェクトの協力者となる家族に出会った。そして、アメリカの目の前に住んでいるが入国できない人々のためのツリーハウスを制作した。
「LIBERTAD」2017
アメリカ側に設置された作品。現在、国境には新旧二つの壁があり、その壁の間にはアメリカ政府管轄の、特に厳しく立ち入りが制限された「ノーマンズランド」と呼ばれるゾーンが存在する。けれどもそこは、近所のメキシコ人にとっては生活圏の一部でもある。Chim↑Pomは「コロニア・リベルタ」と呼ばれるメキシコ側の地域に通い、現地の人々とともに「チーム・リベルタ」を結成。ノーマンズランドにFRP で制作した穴と十字架、スコップを、メキシコ側に設置された本物の穴の作品《The Grounds》と対になるように設置した。それは、その土地に複数あるとされる違法トンネルを想起させる。そこが墓であることを意味する十字架には、穴の向こう側の地名である「LIBERTAD」、つまり「自由」という想像上の主の名前が書かれている。
「The Grounds」2017
メキシコ側の国境沿いに掘った実際の穴。穴は地中に刺さった国境壁の下、アメリカとメキシコの境界である土にまで掘り進めた。アメリカのオーバーグラウンドには立てないエリイがそこまで潜り込み、アンダーグラウンドでその土に足跡を残すことによって、合法的にアメリカに足を踏み入れるという私的なプロジェクト。その足跡を石膏で型取りした。国境壁の真下である土地はアメリカともメキシコとも言えない領土であることから、タイトルには複数形を用いた。