小泉明郎
Dreamscapegoatfuck
2019 7.20 - 2019 8.31無人島プロダクションは、墨田区江東橋に移転後初の展覧会、小泉明郎展「Dreamscapegoatfuck」を開催いたします。
本展は日本で初のお披露目となる映像インスタレーション作品およびVR(ヴァーチャル・リアリティー)インスタレーション作品に加えて、1体の立体作品で構成されます。
映像インスタレーション「Battlelands」(2018年)は、アメリカ・マイアミにあるペレス美術館の依頼によって制作された作品で、この作品制作のために小泉は何度もマイアミを訪れ、イラク戦争とアフガニスタン戦争で従軍し帰還したアメリカの退役軍人7名の協力を得て撮影を行いました。まず彼ら/彼女らに目隠しをし、GoProカメラを頭に装着してもらい、現在の住居や暮らす街の中で日常生活を言葉で描写してもらいます。そしてまったく同じ場所で、今度は戦地で最もストレスを感じた瞬間を思い出してもらい、それを描写してもらいました。この2種類の映像を編集によって継ぎ目なく混在させた映像は、戦争が日常の地続きに感じるかのように鑑賞者に強く迫ります。
戦争と破壊という極限の状態は、人々の記憶やその後の日常生活にどのような影響を及ぼすのか、また命令に従う状況の兵士にとって個人的な「選択」とは何か、感情の中の戦いはどこまで続くのか。華やかなアメリカンドリームの裏に潜在するこれらの問いに、小泉が数年かけて取り組んだ作品です。
この「Battlelands」と対になるのが、小泉の初のVRインスタレーションとなる「Sacrifice」(2018年)です。小泉は「Battlelands」完成後、この作品制作のためにバグダッドに赴き、撮影を行いました。そこで協力してくれたイラク人の若者アハメッドは、アメリカの退役軍人とは逆の立場、すなわちイラク戦争で家族を殺され失った立場にあります。鑑賞者は、アハメッドのヴァーチャルな身体にもぐり込んで、彼の身体と自身の身体を重ね合わせながら彼の体験を聞くことになります。その語りは幼い頃の記憶から始まり、戦争が始まった日のこと、家族が目の前で殺された瞬間を経て、さらに逃れられない記憶の底へと鑑賞者を誘います。
タイトルにある「Sacrifice(犠牲)」とは、誰のための、そしてなんのための犠牲を意味するのか。テクノロジーの発展が著しい今日における私たちの身体性に対する、ひとつの限界に向き合うような体験になるでしょう。
(「Sacrifice」は事前予約優先の鑑賞となります。あらかじめご理解ください。予約はこちらから)
「Battlelands」はこれまでに、マイアミ、ロンドン、ミネアポリス、マドリッド、アムステルダムで、「Sacrifice」はソウル、アブダビ、アムステルダムで発表してきましたが、対となるこの2作品を同時に発表するのは本展が初となります。 ある一人の、生身の人間が語る現実を仮想空間内で、もしくはスクリーン上で安全な距離を保ちながら体験・鑑賞するという矛盾。彼らの体験が実際に自分の身に起こったとき、どれだけの恐怖と絶望と痛みの感情を伴うか。誰かにとっての現実も他者にとっては非現実であること。その間にある見えない壁を想像力だけで越えても、他者の感情に近づくことはできない。その不可能性を小泉は出発点とし、制作に取り組んできました。
そして、「加害者」「被害者」双方の現実の追体験を促す二つのインスタレーション作品をつなぎ合わせる重要な役目を担うのが、立体作品「Sleeping Boy」(2015年)です。 小泉は、息子が生まれてから数年間、息子の死のイメージが脳裏から離れず悩まされた時期がありました。本作は、そのころに制作されています。親になって初めて見ることになった、フラッシュバックのように現れる息子の死のイメージをどうしても振りはらうことができない小泉は、その悪夢のようなイメージに脅迫されながら子供を守っているのだという父性本能の存在に気づかされます。その思いを具現化するように、寝ている息子の傍で頭や手足を粘土で形作り彫刻作品を制作しました。
「息子の死」は、現実の体験を扱った先記二つのインスタレーション作品とは違い、あくまで小泉の脳裏に現れた仮想です。しかし、ハリウッド映画においても、報道や戦争証言においても、死んだ子供や姿を消してしまった子供のイメージ、傷ついた子供のイメージがいかに多いことか。守る本能と戦闘本能は表裏一体にあり、私たちの無意識に取り憑いたこの仮想イメージによって、世界は突き動かされていると作家は考えます。
共感や感情移入を促す装置としての映像メディアを使い、戦争の表象における集団的無意識と欲望を作品化してきた小泉の新たなる挑戦を、ここ、新しい無人島プロダクションの空間でぜひ体験していただきたいと思います。
協賛:株式会社ホワイトライト
協力:小泉明郎スタジオ
HIGURE 17-15 cas 株式会社
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無人島プロダクション 新スペースについて
無人島プロダクションの新スペースは、かつて材木商が立ち並んでいた通りの一角にあり、建物は終戦から3年後の1948(昭和23)年8月に建設された、総木造の元段ボール工場です。今回の小泉明郎展にあたっては、ギャラリーの改装は完成させず、いったん改装途中の段階でスペースをお披露目し、展覧会が終了した後、再度、改装工事を継続する予定です。
今回、まずは元あった工場の名残の部分を皆様にご覧いただきつつ、これから少しずつ進化していくスペースを想像いただけたらと思っております。