photo: Nobutada Omote
photo: Nobutada Omote
photo: Nobutada Omote
photo: Nobutada Omote
The Spinning Dancer (Sculpture) (2017)
3Dプリント、モーター
w 320 x d 320 x h 250 mm

4次元の女

シルエット錯視、もしくはThe Spinning Dancerと呼ばれる、回転する女性の影絵のような動画がある。この動画の錯視効果は双安定性錯視とも呼ばれ、シルエットが右回転に見える人もいれば、左回転に見える人もおり、さらにコツさえつかめば思い通りに左右に回転方向を変えることができるようになる。つまりこれは意識するだけで、何にも触れることなく操作可能な不思議なイメージである。
この錯視効果は2003年頃、インターネットを中心に世界中で話題となった。そのことを記憶している人も多いだろう。改めて調べてみると、意外にも日本人によって作られたものであることがわかった。

近年、こちらも同様にインターネット上で、Vantablackと呼ばれる反射率の非常に低い黒色塗料(可視光の最大99.965%を吸収)が開発されたことが話題となった。この塗料を用いると、立体物は平面的に知覚され、張り付いた黒い紙、あるいはブラックホールのように見える。
残念ながら、Vantablackは著名な海外アーティストによって独占されており、使用できなかったが、それに対抗して開発された(独占者以外)誰でも使用できる、低反射率の黒色塗料の存在を知り、イギリスから取り寄せた。

上記2点を組み合わせ、立体が平面に知覚されるとき、回転する像は果たして同様に錯視効果をもたらすのか試してみたくなり、シルエット錯視の二次使用を制作者である茅原伸幸氏に問い合わせてみたところ、快く了承していただけた。当時のオリジナルの3Dモデルデータはすでに茅原氏の手元に残っていなかったが、制作方法をなぞり、3Dプリンタで出力し上記の塗料で黒色に塗装した。

完成した回転するフィギュアは、見事に意識によって正逆のコントロールが可能であった。驚いたのは、覗き込むように視点を上方に移したとき、シルエットと周囲の空間が歪み、今までに味わったことのない視覚体験が起こったことである。3次元の立体物を、あえて2次元のシルエットに落とし、脳を騙した状態で視点を移動させる…そのことで4次元的、つまり時間によって変化する像が確認された。
マルセル・デュシャンが、射影という方法を用いてキュビズム的4次元を越えたことに、あるいは回転するガラス板によって立体を平面的に捉えようと試みたことに、どこかで繋がるような思いがした。

※本作品は、茅原伸幸氏によって作られた、シルエット・イリュージョンを参考にして制作しています。
http://www.procreo.jp/labo/labo13.html