ENTERについての覚え書き。
「2001年宇宙の旅」に「モノリス」というオブジェクトが出てきます。真っ黒の板状なのですが、それは「人類を新たな段階に進化させるための装置」として描かれています。それに触れた類人猿は知性を得、やがてその子孫である人類は宇宙船をつくり、月にある第二のモノリスを発見し、さらに木星で第三のモノリスに遭遇します。
そのモノリスは誰が作ったのでしょうか? 劇中ではそれは明らかにされず「超人類」というか「宇宙人」というか、謎の存在として描かれています。 ENTERは、 「人類によるモノリスの建造」を夢見てつくったものです。現時点では、まだスケッチレベルのものでしか ありませんが。
生物が海から陸上に進出したように、地球上の生命はいつか太陽系の外に出ていくのかもしれません。しかし、それを行うのは人類ではないのではないかと、考えることがあります。
少し悲しいことではあるのですが。
『人類は(宇宙に行くには)あまりに野蛮で、また地上での二足歩行生活・・・ つまり重力に適応しすぎているので、あまりに長い期間宇宙にいるのは難しいのではないか。むしろ、地球の種を代表して最初に外宇宙に進出する役目を担うのは、海棲ほ乳類のほうがよりふさわしいのではないか。それは数千万年後、あるいは数億年後のことなのかもしれないけど』
このへんは、わたしの夢想の範囲でしかありません。しかし人間が「別の種を新たな段階に 進化させるための装置」を作ることは、やってみる価値のあることのようにも思えるのです。
だから、これは本来、海中におかれるべき作品なのです。
厳島神社の鳥居のような、海中にある、ある特別な役目をもった建造物として、ENTERは構想されています。
作品としてのENTERは、音に反応します。音の周波数を、光の周波数(=色)に変換して、発光します。また、いくつかの周波数が複合された音の場合、同じように光も混色されたものになります。つまり音色を色に変える装置、といえばいいでしょうか。
作品のまわりには、楽器がおかれています。いろんな楽器は、ENTERにそれぞれ違う色を出させるはずです。ソロで、あるいはセッションをして、この装置を楽しんでください。 いつか完成する本当の「ENTER」が、よりよいものになるように。
2003.3.26 ※アメリカとイラクの戦争を憂いながら、記す。
八谷和彦
広島市現代美術館蔵
ENTER (2003)